「うつ病」は、一日中気持ちが沈んで憂うつである、何をしても楽しめない、以前できていた趣味ができなくなった、といった心の症状とともに、眠れない、食欲がない、疲れやすい、おっくうだ、といった身体の症状が、少なくとも2週間続き、心と身体に影響を及ぼす気分障害の一つです。
誰もが時と場合には憂うつになることがありますし、さまざまな悩みによって、憂うつで悲しくなり、食欲が低下し、夜眠れなくなることがあるかもしれません。
通常、このような気分は、寝たら良くなるなど、時間が経過すると改善し、通常の日常生活を送れるようになります。「うつ的」、「落ち込む」、「病む」などは、このようなときに使われる言葉です。このような「うつ状態」の全てが医学的な意味でのうつ病ということではありません。一部の方々では「うつ状態」が改善せず、次第に日常生活全般に多大な支障を生じてしまうことがあります。日常的なうつ状態とうつ病とを明確に区別することは困難ですが、一定の重さの「うつ状態」が2週間以上続く場合に、「うつ病」と診断します。
わが国では、100人に約6人が一生に一度はうつ病を経験するという調査結果があります。また、女性の方が男性よりも1.6~2倍くらい多いことが知られています。
うつ状態を精神的に弱いからと悲観的に考え、一人で悩んだり自分を過度に責めたりせずに、まずは専門の医療機関を受診することが何より大切になります。
うつ病のきっかけは原因が様々で、複数の原因があるのが場合もあります。
職場、学校、家庭内のさまざまなストレス、悲しい出来事を契機としてうつ病になることがあります。さらに、身体の病気や飲んでいる薬がうつ病を引き起こすこともあります。しかし、結婚、進学、昇進、転居などといった、必ずしも悲しくない出来事の後にもうつ病を発症することがあります。
もう少し詳しく説明すると、脳の神経細胞の接合部分のシナプスにはシナプス間隙という隙間があります。一方の神経細胞が神経伝達物質という化学物質を放出して、これがシナプス間隙を伝わって、次の神経細胞に到達することで情報の伝達が行われます。神経の情報は十分な神経伝達物質があってはじめて伝達されます。抗うつ薬には神経伝達物質の量を増やす作用があることから、うつ病になると神経伝達物質の量が減少し、神経の働きに変調をきたし、感情や意欲をつかさどる脳の働きに何らかの不調が生じていると考えられています。
うつ病の治療には、対話を通して進める精神療法と抗うつ薬による薬物療法があります。
治療初期には、心身の休養をしっかりとることが大切です。精神的ストレスや身体的ストレスから離れた環境で過ごすことが治療になります。職場や学校から離れ自宅で過ごし休養を取るだけで、症状が大きく軽減することもあります。
抗うつ薬としては、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)、NassA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)、S-RIM(セロトニン再取り込み阻害・セロトニン受容体調節薬)などがあります。症状や年齢、副作用などを考えて患者さんの症状に合わせて使用します。また、併発する不安症状・不眠・胃腸症状等への薬物療法も同時に行われることがあります。
うつ病の薬物治療の重要なポイントは、多すぎもせず少なすぎもしない最適な服薬量をできるだけ早く見出すことです。その上で「十分な量を、十分な期間」服用することが大切になります。
当院では、まずしっかりと症状やきっかけとなった出来事をうかがいます。うつ病の診断となれば、うつ病の症状をていねいに説明し、一人ひとりの状況にあわせた治療を一緒に行っていきます。
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